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2022年夏、近畿日本ツーリスト(以下、近ツリ)のPTA業務アウトソーシングサービス(以下、PTA外注)開始の話題は、大手企業がPTA業務に参入とあって注目を集めました。お金で解決できるなら利用するべきという意見が出れば、業務のスリム化が先だろうという賛否両論の意見があり、まさにPTA問題に一石を投じた近ツリのPTA外注。サービス開始から半年が過ぎた状況とPTA問題について事務局の中村達也さんにお話を伺いました。 2022年12月 小板橋恵子
※参考:NHK「気が重いPTAの役員 どうすれば?」
近ツリPTA業務アウトソーシングサービスをチェック
PTA外注とは、保護者たちがPTAで行っていたボランティア活動を事業者が有償で請け負うものです。近ツリは、コロナ禍で修学旅行がなくなったなか、PTAのニーズに着目し、社内のPTA経験者に「PTA活動で困ったこと、やってもらいたかったサービス」についてアンケートを取りました。その回答のほとんどがグループ会社にスキルがあり、現地に行きさえすれば対応できることだったため、スタートが決まったといいます。
サービスのメニュー
- 人材派遣➡ 株式会社ツーリストエキスパーツ(添乗員の育成・旅行業務の人材派遣会社)
- イベント関連➡ 株式会社イベント&コンベンションハウス(イベントの企画・制作、TVや映画の制作会社)
- 印刷・デザイン、WEBサイト制作➡ 株式会社KNTビジネスクリエイト(近ツリの事務センターから始まった事業会社)
サービスメニューは、社内アンケートで得られた結果をもとに決定しました。上記の通り、各メニューをグループ会社がそれぞれ対応しています。外注のスタート時の広報はプレスリリース程度にも関わらず8月下旬という2学期が始まるタイミングもあったためか、多くのメディアに取り上げられ、TVは15件ほどの取材があったといいます。近ツリも反響の大きさに驚き、思いのほかそこに課題があったのだと感じているそうです。
近畿日本ツーリストHPより
気になる料金
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人材派遣
東京23区内/大阪市内(最寄りの鉄道駅から徒歩15分以内)にて1日実働5時間勤務の場合、派遣スタッフ1名につき1日10,000円~(税別・交通費別)。※1
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イベント関連
300名以下のイベントの場合、最大3回までの打ち合わせ、内容についてアドバイス、当日運営計画立案、当日の運営にスタッフ1名立ち合い税別25万円から。※2
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※1、※2 近畿日本ツーリスト資料「PTA業務アウトソーシングサービス」(2022年12月現在)より。
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印刷
下図参照。
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近畿日本ツーリスト資料「PTAの方向け特別価格表」(2022年12月現在)より
公立小学校におけるPTA会費の年額全国平均は一人約3254円※3。一校あたりの平均児童数320人※4で換算すると、PTAの年間収入額は約104万円となります。支出は卒業生記念品代や、PTA連合の会費などが多くを占めます。予算の多くを次年度へまわし何十万円も繰越金を抱えるPTAもありますが、公立小学校ではPTA業務を外注に丸投げしたり、継続利用したりするのは、予算的に現実的ではなさそうです。
※3 総務省統計局小売物価統計調査(動向編)調査結果2022年11月よりPTA会費(公立小学校)の全国平均を算出。
※4 文部科学省令和3年度学校基本調査より算出。
PTA問題は公立特有
公立小学校PTAに比べ、私立学校のPTAは予算が豊富。ある私立小学校のHPに「PTA会費年額6000円」と掲載があります。予算に余裕があれば私立学校のPTAは外注を利用するのでしょうか。
(中村さん)「私立の学校は職員の人数が多く自校内に解決策を持っているようです。いまのところ公立学校のPTAからの問い合わせの方が多いですね。」
PTA問題は、人手と予算に余裕のない公立特有のようです。
毎日数多くある問い合わせのなかで、とくに多いのは朝の旗振りについて。ただ、警察に問い合わせると誘導のような安全に関わる業務は警備業にあたり、人材派遣では対応できない業務であるため、旗振りの依頼はお断りしているとのこと。また、問い合わせのほとんどがPTA役員からである一方、PTAを何とか変えたいと課題を持っている校長先生からの問い合わせも多いそうです。
実施例は
(中村さん)「PTAの今年度の予算はすでに決まっているため、来年度に向けた問い合わせがほとんどでした。2022年度は、10月の合唱コンクールへの派遣が、数少ない実施例となり年度中の利用は少ないですが、2023年度に利用は見込まれます」。
否定的な意見は届くのか
(中村さん)「お金を払ってまでPTA業務をやるのか、というご意見があることは承知しています。直接お聞きすることはありませんが、TVで取り上げていただいた際の街頭インタビューで拝見しました。またわれわれが、PTAがなくなったらいいと思っているのではと思われがちですが、PTAを続けることが難しくなっているなかで、選択肢のひとつとして外注を捉えていただけるといいと思っています」。
(中村さん)「子供とつながることや、子供と地域のことを踏まえなければならないことに外注が入るのはふさわしくありません。そういう部分は今までどおり保護者や先生が行い、印刷作業など誰がしてもいいことを外注に頼ってもらい、そこで生まれた時間を、よりお子さん達に近いことに使っていただければと思います」。
皆が考える契機に
(中村さん)「PTA業務自体を見直し、スリム化した方がいいのではないかなど、さまざまな意見はありますけれども、いろいろなかたちがあっていいのだろうと思います。戦後まもなくPTAが始まり、いまは共働き世帯が増え、少子化など、環境が変わっていますので、PTAのあり方は見直す時期にきているのかなと感じています。われわれも外注がすべてとは思っていませんし、こうしたサービスを始めたことがひとつの契機になって、ご意見が出て、皆さんがいろいろなことを考える、それだけでもやった意義があるのではと思っています」。
歴史があり、学校や地域にしっかりと定着したPTAを変えることは簡単ではありません。PTA改革は、まず提案から始まり、話し合いを深め、PTA総会で承認を得て、試行までを見据えると数年かかります。PTAを変えていく過程で、人手が足りないところを外注しながら改革を乗り切るのもひとつのやり方といえるでしょう。
PTAはこうして変える おわりに
PTA世代は働き盛り。仕事に、家事に、育児、介護がのしかかる場合もありパンク寸前です。加えて日本は労働力不足。国は女性が働き続けることを勧めています。おかげで仕事に生き甲斐を得た女性が増え、父も母も仕事を持っているのが当たり前の時代です。
思えば筆者が小学生だった1970年代は、1クラス40名が6クラスあり、それが6学年あるマンモス校はざらにありました。いまは1校の児童数の平均は320名。それなのに昔と変わらないPTA活動をしているのですから無理がくるのも当然です。外注という新たな選択肢は、柔軟なPTA改革のヒントになることでしょう。